― やさしい医学を、やさしい言葉で。―

認知症を正しく知る①
脳は、私たちを守ろうとしています

アルツハイマー型認知症に関わるアミロイドβとタウ。病気との関係だけでなく、本来の大切な働きにも目を向けます。

真央クリニック 院長 佐藤 眞一

不安を、正しい知識で少し軽く

年齢を重ねると、「最近、物忘れが増えたような気がする」「家族が認知症になったらどうしよう」と、不安を感じることがあります。このシリーズでは、アルツハイマー型認知症について、最新の研究を踏まえながら、難しい専門用語をできるだけ使わずにお話しします。第1回のテーマは、アミロイドβとタウです。

アミロイドβとタウは、初めから悪者ではありません

アルツハイマー病の脳では、神経細胞の外にアミロイドβがたまり、神経細胞の中ではリン酸化されたタウが蓄積します。これらは病気を特徴づける重要な変化であり、過剰な蓄積や異常な広がりが神経細胞へ負担をかけることは、現在の医学でよく知られています。けれども、アミロイドβとタウを、初めから何の役にも立たない単純な「悪者」と考えるのも正確ではありません。

アミロイドβは、健康な脳でもつくられています。適切な量では、神経細胞同士が情報を伝える接点であるシナプスの働きを調節する可能性があります。また、細胞や動物を用いた実験では、アミロイドβが単純ヘルペスウイルス1型などの表面に結びつき、ウイルスを絡め取るようにして広がりを抑える働きが報告されています。これは、アミロイドβが脳の防御反応の一部として働く可能性を示す興味深い研究です。

タウも、本来は神経細胞の中で大切な役割を担っています。神経細胞の中には、必要な物質を運ぶための微小管という構造があります。タウは、この微小管を安定させる、いわば「線路を支える部品」です。2025年に報告された研究では、HSV-1感染に反応してタウのリン酸化が増え、リン酸化タウがウイルスに結合して感染性を弱めることが、実験系で示されました。神経細胞の外ではアミロイドβ、内ではタウが、感染防御に関わる可能性が見えてきたのです。

大切なポイント

感染とアルツハイマー病の関係は、現在も研究が続いています。実験研究で示された可能性と、人で確立した事実を混同せず、慎重にお伝えしていきます。

守る反応が、なぜ病気につながるのでしょう

ただし、ここは慎重に受け止める必要があります。ウイルス感染がアルツハイマー病を直接引き起こすと確定したわけではありません。また、アミロイドβやリン酸化タウが防御に役立つ可能性があるからといって、蓄積が無害という意味でもありません。本来は守るための反応でも、それが長く続いたり、処理が追いつかなくなったりすると、炎症や神経細胞の障害につながることがあります。『守る働き』と『病気を進める働き』が同じ分子の中に共存する。この複雑さが、アルツハイマー病研究の難しさであり、面白さでもあります。

現在では、アルツハイマー型認知症には、アミロイドβとタウだけでなく、脳の免疫を担うミクログリア、血管の健康、睡眠中の老廃物排出に関わるグリンファティックシステム、感染や炎症、遺伝的な体質など、多くの要素が絡み合うと考えられています。今後の連載では、これらを一つずつ取り上げます。

今日から大切にしたいこと
  • 感染症を予防する
  • 十分な睡眠をとる
  • 高血圧や糖尿病などを適切に管理する
  • 無理のない運動を続ける

認知症は、ただ恐れるだけの病気ではありません。発症を完全に防ぐ方法はまだありませんが、危険を減らすためにできることはあります。感染症を予防すること、十分な睡眠をとること、高血圧や糖尿病などを適切に管理すること、そして無理のない運動を続けることです。特別な一日よりも、毎日の小さな積み重ねが脳と体を守ります。

院長から皆さまへ

デイケアで利用者の皆さまが育てた、鮮やかな黄色の菜の花
2026年3月、院長撮影。皆さまが大切に育ててくださった菜の花です。

皆さまが大切に育ててくださっている花々を、私はいつも楽しみにしています。今年3月、菜の花があまりにもきれいに咲いていたので、思わずシャッターを押しました。鮮やかな黄色を眺めていると、心まで明るくなるようでした。これからも皆さまと一緒に、季節の移り変わりを楽しんでいきたいと思います。

真央クリニックからのメッセージ

認知症を正しく知ることは、不安を減らす第一歩です。私たちは、病気だけを見るのではなく、その人らしい人生を大切にしたいと考えています。利用者さん、ご家族、地域の皆さまとともに歩みながら、最新の医学を分かりやすく、温かくお伝えしてまいります。

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