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今回から「脳卒中を予防するための十か条」を順番に解説し、脳を若く維持するための秘訣をお話ししていきます。脳を若く維持するためのシリーズ第1弾、今回は「高血圧と脳卒中」についてです。
脳卒中が血圧の高い人に起こりやすいことはよく知られています。
高血圧になると、脳の血管にも強い圧力がかかるため、血管が詰まったり、破れたりする危険性が高くなります。高血圧は脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血のいずれにも深く関係しています。
脳を若く保ち健康で長生きするための必要条件とは何でしょうか。私たちが生きていくためには栄養と酸素が必要です。どんなに素晴らしく優秀な脳でも、たった5分間の血液の供給停止で機能しなくなります。血液の通り道、つまり血管がきれいであることがとても大切です。路面が荒れて見通しが悪い道路では交通事故が起きやすいのと同様に、デコボコ蛇行(動脈硬化)した血管では脳梗塞や心筋梗塞などの血管事故が多くなるのは当然です。動脈硬化は、誰にでも起きてくる老化現象のひとつとも言えます。ただし、その発現年齢と進行速度は人それぞれです。例えば、80歳の方でも動脈硬化がほとんどない人もいれば、40歳で既に石のように硬い血管になっている人もいます。どれだけ大切に血管を使ってきたかが正直に現れるのです。
高血圧は動脈硬化を進行悪化させる大きな危険因子です。血圧が高いからといって痛くも痒くもないことが多いため、早期に治療する人は少ないのが現状です。しかし、放置したり、治療しようと思っている間に、脳卒中となり半身麻痺になったり言葉を失ってしまう人もいます。
「頭の病気だけはなりたくない」と多くの人が言います。しかしながら、治療したくない、薬は飲みたくないという人が多いのも事実です。動脈硬化は、しらない間に自分の体の中で静かに確実に進行していきます。早く年を取り、血管の病気になってしまう旅行切符「血管障害行き、高血圧症便」を手放さずにただ握りしめている生活に、そろそろピリオドをうってみませんか。どうぞ遠慮なくご相談ください。頭と血管の専門家として納得いくまで力になります。
脳を若く維持するためのシリーズ第2弾、今回は「糖尿病と脳卒中」についてお話しします。
脳卒中が血圧の高い人に起こりやすいことは前回説明しましたが、糖尿病も脳卒中の大きな危険因子です。糖尿病は血液中の糖(ブドウ糖)が必要以上に高くなっている状態が慢性的に続いている病気です。糖尿病を放っておくと、長期にわたる高血糖状態により全身の血管がもろくなり、さまざまな合併症を引き起こします。脳の血管も例外ではありません。糖尿病の人は糖尿病でない人の2~4倍も高い頻度で脳梗塞になるといわれています。また、糖尿病と正常型の間にある境界型の状態でも、高脂血症や高血圧、肥満が重なると動脈硬化の進行が加速されます。ブドウ糖は生きるための主要なエネルギー源ですが、高くなり過ぎるとそれは「毒」になってしまいます。糖尿病の方で治療に踏み切れない人は「自分の体中に毒が回っている」、そう考えてみてください。
脳を若く維持するためのシリーズ第3弾、今回は「不整脈と脳卒中」についてお話しします。
国民的英雄である長嶋茂雄名誉監督が不幸にも心房細動が原因で脳梗塞(脳塞栓)にかかり、右手足の麻痺や失語症などの後遺症が残ってしまいました。脳卒中はその名の通り突然やってきます。健康には人一倍注意していた方でも突然襲ってくる病気には太刀打ちできません。常日頃からの注意と予防がとても大切です。不整脈とは規則正しく動いているはずの心臓に何らかの障害が起こり、脈のリズムが乱れることをいいます。特に心房細動では、血液がスムーズに流れずにうっ滞するため心臓に血栓(血液のかたまり)ができやすくなります。この血栓が心臓からとんでしまうと血管をつまらせる原因となり、脳の血管につまると脳梗塞(脳塞栓)になります。心房細動は高齢になればなるほど有病率が高くなる高齢者に多い不整脈です。状態に応じた治療や予防が安全にでき、脳卒中の予防ができます。脈のリズムが不規則だと感じる方や動悸がする時は、病院を受診しましょう。
糖尿病や不整脈などに悩んでいる方はどうぞ遠慮なくご相談ください。少しでも力になれるようにアドバイスします。専門的な診察や治療が必要な方には安心してかかれる専門医へ紹介いたします。頭と血管の専門家として皆様の力になれれば幸いです。
脳を若く維持するためのシリーズ第4弾、今回は「タバコの害と脳卒中」についてです。
本年11/27、「2015年にはタバコが原因で死亡する人が10人に1人に達する」とした、世界の死因の将来予測が世界保健機関から発表されました。愛煙家の人達にはきつい表現ですが、タバコは「百害あって一利なし」が確かなようです。タバコには魔力があり一度習慣化してしまうと、その魔力から逃れることは非常に大変です。
初めてタバコを吸った時のことを覚えているでしょうか。ほとんどの人が、咳き込んだり、頭がクラクラしたり、気持ちが悪くなったと思います。それは、タバコの煙に含まれている200種類以上もの毒物によるものです。タバコを吸うことは非常に有害な毒物を自分の体に無防備に取り入れるということです。排気ガスやアスベストを好んで吸う人は一人もいないでしょう。タバコの煙に含まれる代表的な有害物質3種類と副流煙について簡単に説明します。
喫煙をすることによって、癌や心臓病などさまざまな病気にかかるリスクが高くなります。また、肌荒れやしみの原因にもなります。脳卒中についても例外ではなく、喫煙は脳卒中の危険因子です。喫煙により血液は濃くなり、血圧も上昇して動脈硬化が進み、脳卒中を起こしやすくなります。幸い今年の6月からは、ニコチンパッチ(禁煙するためのニコチンを含んだ貼付剤)が保険適応となり、禁煙を志す方の経済的負担が軽減されました。タバコが止められなくて悩んでいる方はご相談ください。当院は禁煙外来を設けておりニコチンパッチが処方できます。今後も、頭と血管の専門家として皆様の力になれれば幸いです。
脳を若く維持するためのシリーズ第5弾、今回は「アルコールと脳卒中」についてお話しします。
「アルコール、控えめは薬、過ぎれば毒」とよく言われます。近年の研究報告もそれを支持するものが多いようです。愛煙家の人達には大変申し訳ありませんが、タバコとは違い、アルコールは飲み方によっては健康に役立つ可能性があるようです。アルコールの影響は脳の血管が詰まって起きる脳梗塞と、血管が破れて発症する脳出血では違います。
厚生労働省研究班の調査(40~59歳の男性約2万人を対象に、1990年から11年間にわたり追跡調査した2004年の報告)によれば、日本酒を毎日平均1合未満(ビールなら大瓶1本未満)飲む人は、たまに飲む人(月に1~3回程度)と比べて、脳梗塞の発症率が4割も少ないことがわかったのです。ところが、脳出血については逆の結果で、毎日1合未満飲む人でも、たまに飲む人の1.83倍もの発症率でした。飲酒量が増えるにつれて脳出血のリスクは直線的に高くなり、毎日3合以上のアルコールを飲んだ場合は、脳梗塞、脳出血ともに発症率が急増しました。海外での疫学調査でもほぼ同様の結果が報告されています。
多量飲酒によって脳卒中のリスクが上がる機序としては、血圧の上昇、心房細動(不整脈)の誘発、脳血流の低下などが挙げられます。また、少量飲酒で脳梗塞のリスクが下がる機序として、善玉コレステロールであるHDLコレステロールの上昇、血液の固まりやすさの低下が挙げられます。アルコールは両刃の剣で、プラスにもマイナスにもなるのです。従って、飲酒量を減らすことが脳卒中の予防法として重要であり、お酒を飲む場合には1日平均1合未満が適当と思われます。ただし、1日1合未満の飲酒が脳梗塞の予防効果があるからといって、お酒を飲まない人に飲酒を勧めることを示すものではありません。
体に負担をかけず適量を正しく飲むことで、体への悪影響を防ぎましょう。お酒の上手な飲み方は、1.適量、適切な食べ物を食べながら飲もう、2.強いお酒は薄めて飲もう、3.友人や家族と楽しく、ゆっくりと飲み、夜12時頃迄には切り上げよう、4.最低、週に2日は飲まない休肝日をもうけよう、です。私もお酒を飲みますが、上手に飲むことはなかなか難しいものですね。
脳を若く維持するためのシリーズ第6弾、今回は「コレステロールと脳卒中」についてお話しします。
食生活の欧米化、車社会への移行などに伴い、コレステロールや中性脂肪の高い人(高脂血症)が急激に増えてきました。高脂血症は総コレステロール220mg/dl以上(閉経後の女性は240mg/dl以上、つい最近、総コレステロールは善玉も含んだ値のため基準から削除)、中性脂肪150mg/dl以上、LDL(悪玉)コレステロール140mg/dl以上、HDL(善玉)コレステロール40mg/dl未満のいずれかを満たすものと定義されます。ある報告では40歳以上の20~30%の人が高脂血症の危険ゾーンに入っており、中性脂肪についても、男性で約40%、女性で約30%が基準値以上となっているそうです。日本人のコレステロール値は、男性では30~70代までは加齢の影響をほとんど受けませんが、女性では加齢と共にコレステロール値が上昇し、閉経後にピークを迎えます。これは主に女性ホルモンの減少によるもので、食生活の変化や体重増加などがなくても「以前はこんなに高くなかったのに」と感じている女性の方が多いのはこのためです。
高脂血症と聞くと、病気というよりも健康診断でいわれる検査値異常の状態と考えている方も多いかと思います。健康診断などでコレステロールや中性脂肪の値が高いといわれても、症状がないため重大に受け止めず、そのまま放置してしまいがちです。しかし、高脂血症は自覚症状がないまま危険な病気を招くことから、「沈黙の殺人者(サイレント・キラー)」とも呼ばれるとても怖い病気なのです。血液中の脂質が増えると血液は「ドロドロ」になり血管壁にくっつき易くなり、次第に血管が狭くなっていきます。これが動脈硬化で、全く気がつかないうちに確実に進行していきます。静かに進行する動脈硬化は、やがて脳梗塞、狭心症、心筋梗塞など、死亡や寝たきりにつながる重篤な病気を突然引き起こすことになります。LDL(悪玉)コレステロールが増えると、動脈硬化が進み易くなり、HDL(善玉)コレステロールは、血管についたLDLコレステロールなどを除去して動脈硬化の進行を防ぎます。動脈硬化、ひいては脳卒中や心筋梗塞を防ぐためには、LDLコレステロールを減らし、HDLコレステロールを増やすことが重要です。
高脂血症の予防、治療は、まず、食生活、運動、飲酒・喫煙など生活習慣の改善から始めます。それでもLDLコレステロールや中性脂肪が高い場合には、薬物治療が考慮されます。食事では、1.肉類よりも魚・野菜・穀物を中心にした食事にする、2.揚げ物や炒めものなどを控える、3.塩分を控えめにする、4.食べ過ぎない、5.食物繊維をとる、6.酒を飲み過ぎない。日常生活では1.適正体重の維持、2.十分な睡眠、3.適度な運動、4.ストレスをためない、5.定期的に健康診断を受ける、ことが大切でしょう。ただし、食事の影響は個人個人で大きく違うことや、コレステロールが高くなる病気(甲状腺機能低下症、橋本病)もあるので注意が必要です。
脳を若く維持するためのシリーズ第7弾は「食事と脳卒中、食塩」についてお話しします。
塩分や脂肪分の多い食事は病のもとになることは、皆さんご存知のことと思います。塩分、脂肪分の多い食事は、高血圧、高コレステロール血症などの病気を引き起こし、脳卒中のリスクを高めます。しかし、食べ物に対する反応や感受性は個人個人で違います。簡単な例を挙げるならば、お酒です。全く飲めない人もいれば、ザルとしか言いようのない酒豪もいるのです。以前、テレビ番組や週刊誌で、岩塩はいくら摂っても健康に害はないとか、卵を毎日10個も食べたがコレステロールは上がらなかったなどの極端な報告がありました。これらも、感受性ということがわかれば何も不思議なことではありません。
今回は、塩分についてです。日本人の平均食塩摂取量は1日約11gと、かなりの食塩をとっており、最低限の目標である10g/日を切っていません。特に、50歳以上の男性では13g/日と高い水準にあります。食塩の主成分はナトリウムです。ヒトが海から陸上生活に進化する過程で、陸の上ではナトリウムは貴重なミネラルでした。それを体内に保持するためのシステムが必要で、なるべく塩分を体外へ排出しないような仕組みが確立されました。塩分摂取が少なくても生きていけるようになったのです。しかし、おいしいものへの飽くなき欲求などから塩分摂取量は増加し、それに伴って高血圧という病気を多く生じるようになりました。
日本人の高血圧の3~4割の方は食塩をとり過ぎると血圧が上昇し、減塩で血圧が低下する、いわゆる食塩感受性高血圧であり、残り6割の方は食塩の増減でも血圧の変化の少ない食塩非感受性高血圧ということが分かっています。この体質は遺伝するとされており、食塩感受性に関係する遺伝子多型も幾つか発見されています。食塩感受性高血圧の方は腎臓障害が生じ易く、心臓や血管に関連した病気の発症率が非感受性の方に比較して2倍になるとの報告もあります。高齢になるとそれだけで食塩感受性が高まるといわれています。漢方の陰陽論でいうと色白で冷え性タイプ、白髪になりやすい陰性体質の人は塩分の摂取量を多くしても血圧は上がりにくく、色黒で暑がりタイプ、はげやすい陽性体質の人は塩分の摂取量を多くすると血圧が上がり易いようです。
脳を若く維持するためのシリーズ第8弾は「食事と脳卒中、コレステロール」についてお話しします。
前回は、塩分摂取の増加は血圧上昇を来たし、減塩で血圧が低下する食塩感受性高血圧と、食塩の増減でも血圧の変化の少ない食塩非感受性高血圧があることなどを話しました。今回はコレステロールについてです。コレステロールは脂質の一種で、体の働きを調整する副腎皮質ホルモンや性ホルモンなどの材料になります。つまり、健康な体を維持するためには無くてはならないものなのです。
鶏卵1個(50g)には240mg、イカ1ぱい(100g)では300mg、クルマエビ2尾(60g)には130mgのコレステロールが含まれています。鶏卵には「レシチン」という成分が多く含まれています。鶏卵にはレシチン以外に良質のタンパク質、ビタミンB1、ビタミンB2、鉄、リン、カルシウムなどの栄養素がバランスよく含まれており、そういった意味では最適の食品ともいえます。コレステロールを多く含むため悪役の代表になりがちですが、良い面もたくさん持っているのです。
血液中のコレステロールは食事を摂生すれば必ず改善すると考えている人も多いかと思います。しかし、一日に必要なコレステロール約2gのうち1.6g(80%)は肝臓など体内で作られ、食事から吸収されるのはわずか0.4g(20%)でしかないのです。その上、食塩と同様にコレステロールも反応や感受性は個人個人で違い、反応しやすい人と非反応の人が約50%ずついます。食事中の脂肪分が高くてもコレステロールの値が上がらない人と、すぐに影響が出てしまう人がいるのです。食事の内容はとても大切ですが、食事療法だけで全てが解決するわけではありません。
特に不摂生をしているわけではないのに、知らないうちにコレステロール値が高くなってきている人はいませんか。はっきりとした遺伝様式はありませんが、高脂血症(脂質異常)になりやすい家系はあります。良いところも悪いところも両親のどちらかに似てしまうのです。たかがコレステロールと侮ってはいけません。ある日突然襲いかかってくる心筋梗塞や脳梗塞の原因のひとつです。治療の第一歩は食事と運動ですが、今まで話してきたように、それだけでは解決できない場合も少なくないのです。健康診断などの採血結果、もう一度見直してみてはいかがですか。少しでも気になる方は遠慮なくご相談下さい。
脳を若く維持するためのシリーズ第9弾は「運動と脳卒中」についてお話しします。
1kgの脂肪には約、7000キロカロリー(うな重一杯は約700キロカロリー)のエネルギーが含まれています。運動不足状態では筋肉量の減少などにより、基礎代謝が低下します。仮に、何らかの理由で消費するカロリーが2%(1日で40キロカロリー)だけ低下した場合、1年間では約15000キロカロリー、脂肪の重さに換算すると2kg、5年後には10kgの脂肪が体についてしまう計算になります。
健康的な人の血液中には約120キロカロリーのエネルギーが含まれています。運動でまず消費されるのがこの血液中の燃料です。この燃料を半分消費するのに必要な運動時間は、体重60kg人が1時間4kmの速さで歩いた場合、約20分です。20分以上運動を持続しないと体に蓄えられている脂肪が燃えない、つまり皮下脂肪は減らないのです。サウナに入れば汗が大量に出ることで体重が落ち、やせた気分になれますが、座っているだけなので脂肪はほとんど消費されません。脂肪は運動して燃やさない限り減らないのです。
肥満に関係する遺伝子の一つにエネルギー倹約遺伝子があります。体に取り込んだエネルギーを無駄使いせず貯金していく作用を持ちます。つまり、太りやすく、やせにくい体質を発現する遺伝子です。米国人では10人に1人の割合ですが、日本人では実に3人に1人の割合でこの遺伝子を持っています。日本人は飢餓には強いのですが、飽食には慣れていない民族なのです。
運動は、脂肪や糖質の代謝を促進するだけでなく、HDL (善玉)コレステロールを増やす効果もあります。肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常など生活習慣病の予防や改善に役立ち、ひいては脳卒中の予防にもつながります。運動を長期に継続すると、認知症の原因の一つである脳の動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常)を有効に低下させるだけではなく、運動に伴う脳血流の増加や神経伝達物質の分泌促進などによって、脳の老化を防ぐ可能性があるといわれています。大切な自分の脳を守るために無理のない健康運動を始めていきましょう。
「あまり食べていないのにすぐ太る」そう思っている方は少なくないでしょう。カロリー摂取量が同じでも栄養バランスの悪い食事を続けていると体や内臓に脂肪がつきやすくなります。ここ50年間で日本人のエネルギー摂取量は全く変わっていませんが、摂取量に占める脂肪の割合は3倍に増加しています。また、自動車保有台数は10倍以上に増えるなど、便利になればなるほど日常生活から体を動かす機会が減少しています。太っていて何が悪い、「そんなの関係ねえ」で済まされればいいのですが、肥満は糖尿病、高血圧、脂質異常症など、あらゆる代謝系の病気を起こす原因になります。そして、これらの病気は本人が気づかないうちに動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な疾患を引き起こしてしまいます。
最近、肥満の中でも脂肪が体のどこに付くのかで危険性が違う事がわかってきました。特に合併症が多いのは、内臓の周囲に脂肪がたまった状態である「内臓脂肪型肥満」であり、皮下脂肪が多い単純肥満よりも「悪い肥満」であることが判明したのです。しばしばマスコミに登場し話題になっている「メタボリックシンドローム」という新しい概念は内臓肥満が主因となっています。メタボリックというのは代謝という意味でシンドロームは症候群。つまり、メタボリックシンドロームは代謝異常症候群といえますが、別名「内臓脂肪症候群」とも呼ばれます。40歳以上の男性で25%、予備軍も入れると50%、女性は10%、予備軍を入れると20%と、かなり多いものです。具体的には、へその高さで測定したウエスト周囲長によって内臓脂肪がたまっているかどうかを判断します。基準値は男性85cm以上、女性90cm以上で、これを満たした人の中で、血圧、血糖、脂質のうち2つ以上が基準値(血圧は上が130以上または下が85以上、糖は空腹時で110以上、脂質は中性脂肪が150以上か善玉HDLコレステロールが40未満)を超える人が「メタボリックシンドローム」に該当することになります。体の小さい女性のほうの基準値が甘いのは、なぜ?と感じる人も多いと思いますが、女性は一般的に皮下脂肪が多く、同じ内臓脂肪量で比較するとその分ウエストサイズが大きくなるためです。ウエストサイズはあくまでも簡便な一つの目安であって、正確にはCT検査での内臓脂肪面積測定が必要です。
幸いなことに内臓脂肪はたまるのも早いのですが、食習慣の改善や運動などによく反応し、減りやすいものです。従って、メタボリックシンドロームに対する治療は、まず食習慣の改善や運動療法などが中心となります。その上で注意深く診療、生活習慣の改善をサポートし、必要に応じて薬物療法も考えながら心筋梗塞や脳卒中などを予防していきます。メタボリックシンドロームと脳梗塞発症との関係を検討した福岡県での疫学調査があります。メタボリックシンドロームを持つ男性は3.4倍、女性は2.2倍も多く発症するそうです。高血圧や糖尿病、脂質異常症など、さまざまな生活習慣病の原因となる肥満。肥満の解消は、脳卒中の予防にもかかせません。太りぎみの人、特に内臓脂肪の多い方は食生活や運動不足を見直してみてはいかがですか
サッカー日本代表オシム監督が脳梗塞で倒れ緊急入院し、一命を取り留めたものの指揮をとることができなくなってしまったことはサッカーファンならずともご存知のことでしょう。長島巨人軍名誉監督も脳梗塞に倒れ、あの華麗なプレーを見ることや独特の名台詞を聞くことは、永遠にできなくなってしまいました。残念なことです。
脳卒中は起こさないように予防する事が一番大切で、今迄連載してきた ~脳卒中予防10か条~ で 力説してきたのはその点です。それでは、不幸にも起こしてしまったらどうすればいいでしょうか?その答えは、「症状を見逃さず、軽く考えず、すぐに病院へ」です。脳卒中では、以下のような症状が突然、または、段階的に起こります。1.顔面や手足の脱力、麻痺、しびれ。2.ろれつが回らない、言葉が出にくい、理解できなくなる。3.歩きにくい、めまいがする、バランスがとれない、字が書きにくい。4.片目が見えない、視野が欠ける、物がだぶって見える。5.経験した事がないような突然の頭痛。などです。ここで大切なのは、症状が軽いからとか、短時間で改善したからといって自己判断して様子をみないことです。脳梗塞が拡大したり、脳内出血の出血量が増大したりして症状が急激に悪化することは少なくありません。最高の最先端の良い治療ができたとしても、死んでしまった脳細胞を助けることはできません。1分1秒が大切、まさに、時間との勝負なのです。
脳卒中による命の危険を防ぎ、後遺症を軽くするには、早めの治療が第一。もし、ご自身や周りの人に前記の状態がみられたら、一刻も早く救急車を呼ぶか、専門医へ連絡し受診してください。皆様、~脳卒中予防10か条~を読んでくださりありがとうございました。今回でこのシリーズは終了です。
世界保健機関(WHO)は6月時点で「新型インフルエンザ」の世界的大流行(パンデミック)を宣言し、7月下旬での世界の感染者数は15万人以上に達しています。南半球だけでなく,夏季に入った北半球でも感染拡大の勢いは衰えておらず、7月16日にWHOは確定例数報告の更新を断念し、重症、死亡、入院例の集積などに切り替えました。日本では既に終息したかのような雰囲気もありますが、神戸市などの感染者新規報告数は5月のピークよりも7月が上回っていることが判明、大分県でも新規感染者は確実に増えており、100名に達しようとしています。ただし、7月中旬を境に現在は再び減少傾向にあります。
世界的には新規感染者数は徐々に増加していくパターンが一般的ですが、日本では5月17日をピークにいったん減少しており、7月も13日をピークに減少しています。日本独特の政策である学級閉鎖や学校閉鎖が、感染拡大予防に大きく役立っているとも指摘されています。死者はいまだにゼロであり、(1)医療アクセス環境の充実、(2)薬剤の充実、(3)日本国民の意識が高い、などの要因から恵まれた環境にあります。
北半球で季節外れの暑い時期での感染が持続している理由は、まだ明らかではありません(数年前までは、夏にインフルエンザ感染なんてあり得ないとされていた)。「新型インフルエンザウイルス」に免疫がない人の割合が多いことが一因ですが、今までの季節性インフルエンザとは性質を異にしている可能性もあります。つまり、今までの常識が全く通じないことも考えられ、治療する我々も、より注意して対応する心構えが求められます。今回の「新型インフルエンザ」流行は序章に過ぎず、今後の第2波、第3波が正念場と私は考えています。
今後は、地球規模での対応が必要不可欠と考えます。自然破壊され大きく変わってしまった地球、その中で住んでいる人間や動物たち、また、人間から見ればありがたくないウイルスも地球上の住人です。忍者のように変化していく「新型インフルエンザウイルス」の毒性が高くならないような研究ができないものでしょうか。後手後手に回らないようなスマートで前向きな政策実現を望んで止みません。
それでは皆さん、これからも活き活きとした毎日を送り健康を保っていきましょう。そうすることが「新型インフルエンザ」感染予防の基本です。皆さんの体の中には力強い「免疫力」が備わっているのですから。
世界保健機関(WHO)は6月時点で「新型インフルエンザ」の世界的大流行(パンデミック)を宣言し、日本では一時鎮静化したかのような時期もありましたが、8月中旬から再び10歳前後の学童を中心に流行拡大しています。厚生労働省は9月25日、全国約5000カ所の医療機関からのインフルエンザ患者報告数が、14-20日の1週間で1施設当たり4.95(大分は2.97)になったと発表しました。流行水準とされる「1」を超えてから6週連続の増加で、特に東京都では初めて10を突破し、大阪や北海道などの大都市圏で高い傾向にあります。一方、この期間に都道府県から報告があった集団感染の発生件数は4082件で前週より約800件増え、学校の休校と学年・学級閉鎖も前週より約700校増えて2840校に達しています。
新型インフルエンザの国内生産ワクチンは、当初の予想(来年3月までに約1800万人分)よりは上回り、約2700万人分を見込めるとされていますが、それでも不足が予想されるため、輸入が検討されています。既に「新型インフルエンザ」は流行しており、一刻も急がれる状況です。現時点の新型ワクチン予防接種の優先順位は次の1から5の順です。1.インフルエンザ患者の診療に従事する救急隊員を含む医療従事者、2.妊婦、3.基礎疾患(その定義は未定)を有する者、4.1歳から6歳の小児、5.1歳未満の小児の両親。次の候補は、小中高生や65歳以上の高齢者となっています。優先する理由は、必要な医療体制を維持するためや死亡者や重症者を減らすためです。基礎疾患を有する者には「優先接種対象者証明書」を主治医が発行する予定になっていますが、今だ、その詳細についての説明はありません。予防接種が可能な医療機関も今後選定される見通しで、現時点でははっきりした事は言えない状況です。なお、ワクチンの出荷開始時期は10月下旬が有力視されています。
患者さんから、「優先して打ってくれないか?」との申し出が聞かれます。気持ちは良くわかりますが、今回は限られたワクチンを有効に使うため接種対象者は厳密に確認される予定です。国の準備不足や対応スピードが遅いことなども大きな問題点です。後手後手にならぬよう前向きで効果的な政策実現を望んで止みません。皆さん心配でしょうが、今しばらくお待ち下さい。当院もインフルエンザ対策を十分にして、予防、治療していく心構えです。それでは皆さん、これからも活き活きとした毎日を送り健康を保っていきましょう。それこそが「新型インフルエンザ」感染予防の根本です。
「新型インフルエンザ」についてお話しする理由は、1.大分が感染者数日本一、2.感染しやすい年齢層の変化、3.急激な重症化傾向、の3つの変化のためです。最近の急激な流行拡大から全国の累積推計患者数は1000万人近くになっています。大分県の11月16~22日の新規感染者は1医療機関あたり77.21人(ちなみに、9月14~20日は2.97人)。最多は宇佐や中津など北部の122.3人で警報基準値の4倍以上、大分市は75.38人。全国ワースト2だった前週(53.64人)から激増し大分が全国最大の流行地となりました。この期間の新規感染者総数は4478人で、年代別に見ると、0~9歳2617人、10代1561人、20代84人、30代120人、40代以上96人。今迄は10歳前後の学童を中心に流行していましたが、感染の中心は乳幼児に移りつつあり、最近では感染者数が少なかった成人の増加が目立つようになってきました。また、ヨーロッパでは重症者が大幅に増えており、ウイルスの高病原性変異が起こってきているようです。
インフルエンザ脳症の報告数も増え、ここ4ヶ月間で132例報告され、そのうち新型インフルエンザウイルスによると確定されたのものが88%です。2004/05シーズン、2005/06シーズンがそれぞれ53例で最高だった事を考えると、新型インフルエンザは脳症の発生頻度が高いと言えます。脳症患者の好発年齢は5歳以下でしたが、新型では15歳未満が96%近くを占め、年齢中央値は8歳、明らかに年齢層が上昇しています。発熱後その翌日までに意識障害を来している例が大半で、小学校低学年の子供であっても目を離さず、少しでも様子が変だなと感じたら、すぐ医療機関を受診することを勧めます。新型インフルエンザ脳症の代表的な症状は、意識障害(100%、発熱から意識障害出現までの期間は中央値1日)、異常行動・言動(75%)、けいれん(50%)、という割合で見られています。季節性による脳症との比較では、患者の年齢が高いためか、けいれんの発生頻度がやや低い傾向があります。転帰は治癒・軽快が83%で、10年前の治癒・軽快が45%、死亡が25%、残りは後遺症残存との数字と比較し飛躍的に改善しています。これは、インフルエンザ脳症の研究が進み、ガイドライン作成が浸透したためです。
新型インフルエンザの国内生産ワクチン予防接種は、既に始まっています。問い合わせの電話が非常に多いなど、どの医療機関でも苦労しているようです。優先順位が決まっていますので、あまりパニックにならないようにして下さい。当院もインフルエンザ対策協力医療施設でワクチンを在庫しています。しかし、国からの供給本数が直前にならないと決定されないため、十分な対応ができない状態です。心配でしょうが、優先順位のある方は直接来院下さり、他の人は、もう少し待って下さると助かります。それでは皆さん、これからも活き活きとした毎日を送り健康を保っていきましょう。
まずは、日本における漢方の簡単な歴史から始めましょう。日本に漢方が輸入されたのは、飛鳥時代414年にさかのぼります。その後、遣隋使や遣唐使の往来がありましたが一部貴族の医学に留まりました。中国の漢方が日本に広まり根付いたのは室町時代、16世紀以降です。以後、多くの有名な漢方医が生まれ、日本独特の漢方医学体系が築かれていきました。明治時代に入り西洋医学が主流となり、しばらくの間、漢方医学は低迷期に入りました。しかし、西洋医学にはない漢方の考え方は脈々と受け継がれ、昭和45年頃から本格的に見直されるようになりました。昭和51年には漢方方剤が初めて健康保険に採用され、以後、漢方医学は現代医療の中に揺るぎ無い地位を確立するようになりました。私が医学生の時には、大学での漢方の授業はありませんでしたが、今ではほとんどの大学で漢方の講義が行われています。
皆さんは、「漢方」と聞いて、どういう印象をお持ちでしょうか?副作用がなさそう、体によさそう、逆に、飲みにくい、効くのに時間がかかる、効果が疑わしい、などいろいろな意見があると思います。大切なことは、漢方の処方は数千年の歴史を経て、数え切れない経験の集大成から生まれたという事実です。この歴史こそが否定する事のできないエビデンスであり、漢方の有効性、優秀性を物語っているとも言えます。
東洋医学の中に、未病を癒すという言葉があります。今は問題がなくても将来起こりうる病気を事前に防ぐ、つまり、現代でいう予防医学に通じる言葉です。西洋医学的な検査では全く異常がないのに、体調不良や色々な症状が現れる事は少なくありません。体全体のバランスがとれていない状態や、未病の段階である事が多く、こんな場合こそ漢方の出番であり、得意とする分野です。
私が漢方に興味を持ち始めたのは10数年前です。自分のこむら返りが漢方で嘘のように良くなったことと、一人一人の体質や状態に合わせ全体を診る漢方の考え方に惹かれたからです。まだまだ未熟ではありますが、日々勉強しながら、「心と体に優しい」漢方治療を行っています。遠慮なくご相談下さい。
漢方には、漢方特有の専門用語が数多くあります。例えば、「証」とは患者さんが持って生まれた体質や病気になった時の症状や状態を漢方的な診療方法(次回のシリーズで解説する気血水、五臓、六病位などのとらえ方や虚実、寒熱などの尺度)で評価して総合的に得られた一種の診断名のことです。本来あるべき正常な状態からどれだけバランスが悪くなっているか、それを表す健康のバロメーターのタイプとでも考えてください。その「証」が入った言葉のひとつに「方証相対」があります。「ほうしょうそうたい」と読みます。漢方方剤はありとあらゆる病態、証に対応しており、ある証には最も適した方剤が存在しているという意味です。漢方医の重要な役目は各々の患者さんに、その時に一番合うぴったりの薬(方剤)を探し出すことです。そのためには、その人の「証」を正確に決定することができなくてはなりません。
漢方、特に日本で発達した和漢の診察法には大きく分けて4つあります。これらは「四診」と呼ばれ、人間が本来持っている、非常に繊細な五感を用いて診察するものです。特別な機械や道具は全く必要なく、いつでもどこでも行えます。「四診」とは、「望診」、「聞診」、「問診」、「切診」の4つをいいます。「望診」は、よく見ることによって患者さんの情報を得ることです。顔色、眼光や表情、皮膚や爪などの状態、動作のスピードなどあらゆる視覚情報を収集します。「聞診」は耳と鼻による情報収集です。声の張り、大きさ、しゃべり方、もちろん、呼吸音やお腹の音などの聴取も必須です。また、体臭や息の臭いなどにも注意します。「問診」は西洋医学でも用いられる言葉で、漢方診療では、汗、口渇感、悪感、めまい感、大小便の状態が特に大切です。「切診」は「せっしん」と読みます。具体的には、「脈診」と「腹診」の2つです。「切」とは「触れ探る」の意味です。「脈診」では、単に脈の遅速を診るだけではなく、大か小か、緊か緩か、浮か沈か、などなど、多くの観察点があります。「腹診」は江戸時代に日本で独自の発展を遂げた重要な診察法です。内臓の触知を主目的とした西洋医学的なものとは異なり、特徴的な複数の圧痛点や筋肉の張り、動脈の拍動、腹部上下や左右の差などを丁寧に優しく自分の手のひらと指先の感覚で探っていく独特の方法です。
当院では風邪の患者さんでもケガの患者さんでも老若男女全ての人に対して脈診を施して診断や治療に役立てています。その人の脈を何回も何回も診ていくと、その人の体調や状態の変化がわかるようになっていきます。言い換えれば、患者さんから医学を教えていただいている、と言っても過言ではないでしょう。
個々に光を当て全体を診る漢方の考え方は、これからの時代にますます必要なものになっていくと思います。漢方は奥深くその習得には非常に時間がかかるものですが、日々患者さんと共に勉強しながら、「心と体に優しい」漢方治療を進めていきたいと考えています。
漢方には、皆様が聞きなれない専門用語が数多くあります。難しいと思われる方も、それらに慣れてしまえば漢方に親しみやすくなり、漢方嫌いの方も少し減るかもしれません。例えば、私が外来診療でよく使う言葉の一つに、「血」(おけつと読みます)、がありますが、音だけを聞くと、「おけつ」、つまり、「おしり」と勘違いされてしまう事があります。また、「自汗」もよく用いる言葉ですが、私が、「自汗なし」と言うと、患者さんが、「いいえ、今日は時間、充分にあります」、などと答えて笑ってしまう事も。ちなみに、「血」とは血が滞ってスムーズに流れていない状態、具体的には、暗赤色の舌や、目の下のくまなどがわかりやすいでしょう。「自汗」とは風邪をひいたときなどに出る汗のことで、風邪の時期や、患者さんの体質によって変化し、処方する漢方も違ってきます。
以下、一般の方でも知っておいたほうが役に立ちそうな漢方用語と、その簡単な説明を述べていきます。1.「虚実」とは、病毒などに対して、それに対抗する体力や気力が乏しくなった状態を「虚証」、充分抵抗できる状態を「実証」、その中間を「間症」といいます。2.「気」とは生体に備わっている生命力、倦怠感があって力が出ない状態の「気虚」や動悸、頭痛、のぼせなどを呈する「気逆」などが有名です。3.「血」とは血液のことで、「血」の他に、貧血状態の「血虚」があります。4.「水」とは体の中の水分や体液をさし、むくみや、めまい嘔吐が出やすい「水毒」が代表です。5.五臓とは「肝、腎、脾、心、肺」の5つを言います。ストレスが溜まり気分がふさぐ状態の「肝気鬱結」、「脾虚」とは、消化機能が低下し体がだるく力が入りにくい状態、「腎虚」とは精力減退や足腰の老化、おしっこが出にくい、目がかすむなどの状態を表します。その他、「腹診」の中で用いられる、胃の中に消化液などが溜まっている状態の「胃内停水」、肋骨の下の脇腹からみぞおちにかけての抵抗と圧痛を認める「胸脇苦満」、下腹部が柔らかく押さえると力なくへこむ「小腹不仁」などなど、紙面では紹介しきれない位あります。
これら漢方の専門用語は患者一人一人に光を当て、全体を診るための表現方法と言ってよいでしょう。これからも、日々患者さんと共に勉強しながら、「心と体に優しい」漢方治療を進めていきます。
頭痛は身近な病気でありながら、一般の方や専門ではない医師にもまだまだ正確に認識されていません。単なる頭痛が死に至ることもあります。また、正しく診断すれば治る頭痛も放置されていることが少なくないようです。
ある日本での頭痛の疫学調査によると、片頭痛患者の74%は寝込んだりするなど日常生活に何らかの支障を来たすそうです。また、片頭痛患者の医療機関受診率は定期的にする人はわずか2.7%、時々が12.3%、1回はあるが15.6%で、残りの約70%は一度も受診していないことがわかりました。治療状況は全体の56.8%が市販薬のみで対処し、病院の薬のみを服用する人は5.4%と少なく、併用している人は18.6%、19.2%は薬を服用していないそうです。片頭痛が日常生活に支障を来たしているにもかかわらず、病院を受診する人が少ないことや、市販薬で済ませてしまうことは多くの問題点を生んでいます。
問題点の一つに安易な鎮痛剤の服用が挙げられます。痛み止めを頻回(一月に10回以上)にとると鎮痛薬を服用するために、かえって頭痛が出現しやすくなり、非常に難治性の慢性頭痛になってしまうことがあるのです。これを薬物乱用頭痛といいます。簡単に言うと、痛みをとるために飲んだ薬が、逆に痛みを生んでしまうのです。
次の問題点として頭痛の原因には外科的や内科的に治療が必要な多くの疾病が存在することが挙げられます。頭痛は一次性頭痛と二次性頭痛に大別できます。片頭痛や緊張型頭痛(以前は、筋収縮性頭痛と呼ばれていた肩こりに伴う頭痛)などの命にかかわらない頭痛を一次性頭痛といいます。それに対し、二次性頭痛は命にかかわる頭痛、例えば、くも膜下出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、髄膜炎などが含まれています。
重篤な疾患が原因であっても、意識障害や麻痺、しびれ、目の症状などが出るとは限りません。くも膜下出血も初発症状が頭痛のみのことがあります。自分の大切な命を守るために、「単なる頭痛」と決めつけないようにしましょう。次のような頭痛は危険な頭痛の可能性が高いので特に注意し、病院にかかるようにしましょう。「いつもと違う頭痛」、「今まで経験したことのない頭痛」、「どんどん悪くなっていく頭痛」、「突然の激しい頭痛」、「40歳以降の初発頭痛」などです。
当院ではヘリカルCTなど最新の医療機器を駆使して画像的に精査するだけではなく、専門医である私が、神経学的に正確に診断していきます。また、画像で異常がある場合はもちろん、正常な場合でも患者さんの訴えが解決できるまで丁寧に説明し、治療していきます。
頭痛持ちの方、一人で悩まずに1日も早く痛みのない生活を送ってください。
頭を打ったお子さんのご家族へ
軽いケガのようにみえても命にかかわることがあり、見た目の重症度や傷の程度と相関しないことがあります。受傷直後の状態がはっきりしない場合は特に注意が必要です。頭の中の出血や脳の腫れの変化は遅れて起きることが稀ではなく、当初意識がはっきりしていても重症化する場合もあります。
一般的注意
頭を打ってから6時間以内は一人にさせずに安静にし、食事は消化のよいものを少な目に与えます。
頭を打ってから24時間以内は激しい運動や遊びをさせず、お風呂は控えます。痛み止めはなるべく飲ませないほうが賢明です。
緊急対応が必要な状態
頭痛や首などの痛みがだんだん強くなる。
吐き気が続き、何回も吐く。
手足が動きにくくなったり、ふらついたりする。
目がかすんだり、物がダブって見えたりする。
眠気が強く、ぼんやりしている。
起こしても眠りから覚めにくい。
けいれん(ひきつけ)が起きる。
風邪でもないのに高熱が出る。
などです。
とにかく、なんか変だな、と感じたときは遠慮せずにご連絡、ご来院ください。
時間、曜日は問いません。
今からでも遅くない生活習慣の心がけ
90歳を超えて元気にしていらっしゃる老人A,B二人の会話です。
A:「わしゃー、毎日タバコを100本以上吸ってきたがとても元気じゃ。息もあがらんし肺癌にもなっとらん。」
B:「わしだって焼酎を毎日1升飲んできたが、肝臓もいいし頭もボケておらん。」
この二人は幸いにも、タバコやお酒が健康寿命に影響しなかったようです。でも、タバコやお酒が健康を害さないとはいえませんし、皆に当てはめるには無理があります。人は十人十色、同じ人はいないのです。
近頃は、健康法や健康食品、健康グッズ、どこを見ても何を聞いても健康という言葉が不健康なくらい溢れかえっています。「健康」という言葉には魔力があるようで、人は毒になるかもしれない物をも妙薬だと信じてしまうようです。
東洋医学の中に、未病を癒すという言葉があります。今は問題なくても将来起こりうる病気を事前に防ぐ、つまり、現代でいう予防医学に通じます。多くの疾病が生活習慣を起因として発症します。最近流行のメタボリック症候群は、過食や運動不足が積み重なり、内臓脂肪が過剰に蓄積されて起こる疾患です。具体的には、ウエスト周囲径、男性85cm、女性90cm以上ある人が、血圧や中性脂肪、血糖がわずかに高いだけでも動脈硬化のリスクが大幅に上昇し、心筋梗塞や脳卒中が数倍から数十倍発症しやすくなります。
生まれて一番確かな事、それはこの世に生を受けたからには死を迎えるということです。誰だって死なないつもりで生きていますし、無意識のうちに平均寿命くらいは大丈夫と思い込んでいます。脳は突然ボケるのではなく、自らがボケやすい生活習慣を続けているからなるのかも知れません。脳卒中は突然起きますが、血管がつまったり破れたりしてしまうまで自らが動脈硬化を長期間放置していた結果ともいえます。健康に長生きするためには日ごろの心がけ、予防がとても大切です。
2巡目大分国体を記念しまして「運動と認知症」についてお話しします。
ご存知のように日本は世界でも有数の長寿国になり、女性は世界で1番を保っています。戦後間もない1947年の平均寿命は、女性53歳、男性が50歳だったのは遠い昔のように感じられます。なんと30年も寿命が延びたのですから。しかし、実際には寿命が延びたことを素直に喜んでばかりいられなくなったのも事実です。「長生き」すればするほど「健やかに老いる」ことが難しくなってしまうからです。
どんなに医療が発達しても年齢と共に進行する老化を完全に食い止めることは残念ながら出来ません。人体の大部分の組織は年をとるとともに萎縮していきます。大切な脳も例外ではなく、どんなに頭を鍛えても脳細胞は10年間で約4%も減少してしまうのです。脳細胞の減少がゆるやかに進行する場合は問題ないことが多いのですが、そのスピードが速かったり、部位が広範囲だったりすると「認知症」になる可能性が高くなります。ただし、年齢に伴う認知機能の生理的低下と、病的な低下(認知症)の境界線を明確にすることは必ずしも容易ではありません。
現在、大きな問題になっているのはアルツハイマー型認知症です。ここ数年でもこのことを主題にした映画が多く作られており、社会的にも大きな関心を集めています。典型例では、記憶をつかさどる海馬という領域が萎縮し、記憶力が侵されてしまいます。次第に後頭葉などに病変が広がり、人としての判断能力や適応能力が著しく低下、最終的にはいわゆる「恍惚の人」になってしまいます。アルツハイマー型認知症は動脈硬化とは直接的な関係はありませんが、最近の研究では、動脈硬化がある人は何らかの「認知症」になりやすい、との報告が複数されています。
「認知症」を予防する有効な方法はないのでしょうか?脳は非常に多くの酸素を消費する臓器で、そのために心臓から送られる血液の15%もの血流量を必要とします。血液を運ぶ道、つまり血管がきれいであってこそ順調に目的地(脳)まで十分な血液が送られるのです。答えは、「動脈硬化をなるべく起こさない」ことで、認知症を予防する重要なポイントの一つです。
それでは運動は動脈硬化を予防するのでしょうか?答えはイエスです。運動することで血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪を減らし、逆に動脈硬化を防ぐ善玉コレステロールを増加させます。血糖値を下げ、血圧も下がる方向に傾きます。また、運動は血管を若く維持する有効な防御手段であるばかりではなく、運動に伴う脳代謝の上昇や神経伝達物質の増加などにより、脳の老化を積極的に護る作用もあると考えられています。
「健康に老いる」ことは、これからの時代にますます重要な課題です。全く運動習慣のない私ですが、これを機に生活習慣の中に運動を取り入れ、これからも日々患者さんと共に勉強しながら、「心と体に優しい」診療をしていきます。
食事の影響
この題材を選んだ理由の一つは医師が想像している以上に多くの方が健康食品を服用しているためです。健康になるための健康食品で逆に体をこわしたり、病院で処方された内服薬に悪い影響を与えてしまう事が少なくありません。健康食品の詳細については今後説明する予定ですが、健康食品に限らず、何気なく口にする食べ物でも注意が必要です。特に、グレープフルーツはその代表で、果物そのものは勿論のこと、ジュースやグレープフルーツが含まれる料理、デザートなど全てがその対象になります。ただし、私達が冬によく口にするみかんなど他の柑橘系果物については、今の所重要な相互作用(悪い影響)は認められていません。
特に注意すべきことは、その影響が数日間という長期に持続する事です。いつもきちんと薬を服用していても大きくバランスを崩してしまうことになるかも知れません。ここで、影響を受ける代表的な薬を挙げてみましょう。高脂血症治療薬である「リポバス」はグレープフルーツの摂取で血液中の薬の濃度が10倍以上にもなる事があります。降圧剤の一種である「ムノバール」は約3倍、「アダラート」は約1.5倍に上昇します。抗生物質の「エリスロマイシン」も1.5倍上昇、「多くの安定剤」も1.5倍から2倍など、予想以上に濃度が上昇して副作用が出る危険性を増大してしまうのです。
また、既知の事と思いますが「納豆」についても少し触れておきましょう。「納豆」と相性が悪い薬は「ワーファリン」です。この薬は、栄光の背番号3、長島茂雄元巨人軍監督が脳塞栓で倒れてから、一段と知られるようになりました。心房細動(脈が常に不整で心臓の中に血の塊ができやすい)などの病気を持った人は、血の塊ができにくいように「ワーファリン」を服用します。この時、血のサラサラ具合を一番効果的でかつ安全な状態にするわけですが、「納豆」を少しでも食べてしまうと、いとも簡単にサラサラだった血液が普通の状態に戻ってしまうのです。
これを機に皆さんの中で薬を服用している方は、改めて自分の薬と食事について考えてみてはいかがでしょうか。それでは、これからも活き活きとした毎日が送れるように、日頃から健康の維持と増進に力を合わせていきましょう。
肥満は病気?
「肥満」は病気でしょうか?肥満が疾患として認識され始めたのはまだ15年前のことで、以前は病気ではないと認識されていました。
肥満とは、体重に占める脂肪組織量が過剰になった状態をいいます。中でも内臓脂肪の蓄積が糖尿病、高血圧、脂質異常症などの病気を起こす原因になり、徐々に動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患を発症させます。
また、脂肪の量的な増加により、膝などの関節疾患、睡眠時無呼吸症候群、月経異常なども起こしやすくなります。肥満の判定基準にBMIがあり、これは体重を身長の2乗で割った値です。欧米ではBMI30以上が肥満ですが、日本では25から30の人でも各種疾患を伴いやすいため25以上になっているのです。
世界の傾向と同様に日本の肥満者の割合も増加の一途をたどり、中年男性は3人に一人が肥満者で、女性では60歳代が肥満のピークで約30%に達します。ちなみに私のBMIは26程度、つまり肥満にあたり、大学卒業時より10kgも太っています。今年から特定健診が義務化され、他人には知られたくないウエストサイズを測定する事が当たり前になり、少し複雑な気持ちです。メタボリック症候群という言葉は流行語のように繁用され、最近では「メタボ」なる呼び方が一般化しています。
食べ過ぎなければそんなには太らないことは誰もがわかっているはずですが、「わかっているのに止められない」のが人間の弱いところです。本来、野生動物では食欲は精妙なフィードバックコントロールにて適正に調節されています。しかし、ヒトでは食行動パターンが外的影響によって変化しやすく、また、高脂肪食中心の食事は食欲中枢のバランスを過食傾向にシフトさせるとも言われています。
現在の肥満は長い歳月をかけてもたらされた結果であることは間違いありません。1日必要エネルギー2000kcalの人が、わずか1%だけ(つまり20kcal、バナナ1本は約160kcalですので、たったの1/8本です!)適正カロリーオーバーを続けた場合、1年間で1kg、10年間で10kgの体重増加を来たします。まさしく小事が大事ですね。特に日本人は、太りやすく、やせにくい体質を発現する遺伝子(エネルギー倹約遺伝子)を持つ割合が高く注意が必要です。長い歴史の中で飢餓状態に強くなり、過食に慣れていないのです。